第81回選抜高校野球大会5日目の26日、彦根東は第3試合で習志野(千葉)と対戦。先発右腕、金子周作が突然の故障で六回途中に降板するアクシデントにも、抜きつ抜かれつの競り合いを展開。が、最後は力尽き、サヨナラ負け。過去2回の出場で逃した初戦突破の夢は目前をすり抜けた。
先制は彦根東。大応援団が後押しする中、四回二死から4番甲津賢人、5番前川大地が連続二塁打。チームとして、記念すべき甲子園初得点を挙げた。
暗雲が立ちこめたのは五回。ここまで無安打、5奪三振の金子が、右手のけいれんで治療。この回こそ無失点で切り抜けたものの、けいれんは足にも広がり、六回途中、2点を失って逆転を許したところで、今井義樹にマウンドを譲った。
ナインはここから意地を見せる。七回、足を絡めて追い付き、再び1点勝ち越された八回にも、相手投手の制球の乱れに付け込み、暴投などで逆転した。
が、粘りもここまで。4―4の九回裏二死二、三塁から右前に運ばれ、万事休した。試合後、今井義尚監督は「もう1試合金子に投げさせようとまとまり、100%の力が出せた。きずなを深めた甲子園を、また目指す」と目を潤ませた。
ナイン心ひとつ同点エース降板1点追う7回
無念の内にマウンドを降りた背番号「1」のため、チームが一つになった。
1点勝ち越されて迎えた七回の攻撃。「秋から金子に頼りきりで勝ってきた。今度は支える番や」。円陣での今井監督のげきが、ナインの闘志に火をつける。
先頭は金子の後を継いだ今井。2球目を振り抜く。打球はレフト前に弾んだ。
次は、四回の守備で左飛を落とした野坂悠太。自分が招いたピンチで、エースは踏ん張ってくれた。寝かせたバットでコツンと転がし、今井を二塁に送る。
二死となった後、打席は9番の河野亮平。スクールカラーの赤で埋まる一塁側スタンドが生き物のようにうねる。「ゴー、ゴー!」
フルカウントからの打球が、力無く投手と一塁手の間に転がる。一塁はがら空き。白球を拾った投手と、河野のかけっこ――。塁審が両手を大きく広げた。
今井はこの時、三塁コーチ、京極秀平の姿を目で追った。野球の技術書で走塁を研究する”職人”が腕を回す。頭から本塁へ。返球を受けた捕手のミットをくぐり、今井はベースの隅を左手で払う。同点。花冷えの甲子園が2万3000人の歓声、悲鳴に揺れた。
56年ぶりの彦根東に33年ぶりの習志野。夏の優勝2回の「NARASINO」のユニホームに一歩も引かなかった好勝負。「一丸となり、心のつながりを感じた」。試合後、主将の新谷直弘は胸を張った。
さわやかな風とともに去った、「21世紀枠」のナイン。エースが再びマウンドに立つチャンスは、夏に残っている。(鷲尾龍一)
(2009年3月27日 読売新聞より)