文化財保存・修復の現場で顕著な業績を上げた今年度の受賞者が決まりました。表彰式・記念フォーラムは、5月31日(日)午後1時半から大阪・中之島のリーガロイヤルホテルで行われます。
■本賞 鍛冶(かじ)・白鷹幸伯(しらたかゆきのり)(松山市)=薬師寺、唐招提寺などで「千年の釘(くぎ)」を復元
■奨励賞 本藍染(ほんあいぞめ)・森義男(滋賀県野洲市)=国宝「一遍上人絵伝」の表装などに取り組む
■特別賞 一般社団法人 国宝修理装コウ師(そうこうし)連盟(岡興造理事長、京都市中京区)=加盟10工房で国指定の絵画・書跡などを修復
本賞の白鷹幸伯氏は国宝建造物などに用いられる和釘(わくぎ)鍛冶(かじ)の第一人者。伝統の本藍染を究める奨励賞の森義男氏、絵画・書跡の修理を牽引(けんいん)する特別賞の国宝修理装コウ師(そうこうし)連盟とともに、日本文化の根底を支え、次代につなぐ「裏方の立役者たち」だ。5月31日の表彰記念フォーラムでは、国文学者・中西進氏の基調講演や、今回から選考委員に加わった作家の澤地久枝氏らと受賞者の座談会が催される。
《奨励賞》
◇本藍染 森義男さん67
◆濁りない色求め 一徹に製法守る
明治初年に創業の紺屋「紺九(こんく)」の4代目。染料を仕入れて染める同業者が多い中で原料のアイの栽培から染料化、染めまで一貫した取り組みなどが評価され、国選定保存技術保持者に認定される。
伝統の技術は、桂離宮松琴亭の襖紙(ふすまがみ)や国宝「一遍上人絵伝」(京都・歓喜光寺)や重要文化財の表装などに使われてきた。現在は、4年後に迫る伊勢神宮の式年遷宮に用いられる絹糸を染めている。
創業時は地場産業の綿や麻の絣糸(かすりいと)が主だったが、近郊や京都の同業者が廃業したり、化学染料へ転換したりして、文化財修復の紙や絹糸が持ち込まれるようになった。夏場に収穫したアイの葉約300キロを乾燥させ、水をかけながら、2か月半もかけて発酵させる。それを木灰の灰汁(あく)と混ぜ、約200リットル入りの甕(かめ)28個に仕込み、発酵させる。
工房に埋め込まれた信楽焼の大甕に泡が浮かぶ。「”藍の華”と言います。発酵が十分に進んだ証拠です」。甕の茶色の液に糸を浸して取り出すと、一瞬で茶色から緑、そして藍色へと変わる。染めは1か月がかり。使う水は地下水で「水道水だと色が濁る」と昔からの製法にこだわる。
「マイペースで続けてきただけです。下働きを評価していただき、感激しています」と一徹な表情をほころばせた。
■選考過程
◆全国各地から62件の応募
選考委員会は、全国から自薦・他薦で届けられた62件の応募書類や添付の参考資料を基に協議を重ね、まず十数件を有力候補に選んだ。次に、8人の全委員が本賞や奨励賞などにふさわしいと考える5件ずつを投票。集計して上位の数件についてさらに全員で意見を出し合い、最終的に満場一致で各受賞者を決めた。
京都市立芸大名誉教授、奈良県立万葉文化館長・中西進氏「様々な光の当て方で伝統の根の深さが感じられる。とくに基礎的な顕彰ができたと思う」
文化財保存修復学会長、九州国立博物館長・三輪嘉六氏「今回の表彰で保存修復の本流とされてきた分野を支える仕事にも改めて目が向けられるのではないか」
作家・澤地久枝氏「間口の広さを感じた。一つの仕事で長年頑張っておられる方に強い感動を覚えた」
日本文化財保護協会専務理事・上野博司氏「甲乙つけ難いものが多く、有力候補入り自体が評価される」
(財)文化財建造物保存技術協会常務理事・亀井伸雄氏「応募分野の幅が従来より広がった。悩んだが、いずれも自信を持って推薦できる」
奈良文化財研究所長・田辺征夫氏「白鷹氏は、縁の下の力持ちを発掘して顕彰する賞の趣旨に合う」
奈良国立博物館長・湯山賢一氏「奨励賞は将来への期待と同時に影響力も評価され、森氏はふさわしい」
東京芸大大学院教授・稲葉政満氏「国宝修理装コウ師連盟は国際協力にも取り組んでおり、特筆される」
■記念フォーラム
◆授賞式と講演、座談会
5月31日(日)午後1時半~4時半(開場は1時)
大阪市北区中之島、リーガロイヤルホテル((電)06・6448・1121)2階「桂の間」
表彰式の後、中西進氏の基調講演「文化の根底を支えるもの」。澤地久枝氏と第3回受賞者たちによる座談会。司会は三輪嘉六氏。
無料、定員200人。申し込みは、5月25日までに、はがきかファクス、メールで氏名・住所・電話番号・年齢・参加人数を記入し、〒530・8551(住所不要)読売新聞大阪本社あをによし賞事務局(ファクス06・6881・7379、アドレスawoniyoshi@yomiuri.com)へ。
【主催】 読売新聞社
【特別協力】文化財保存修復学会
【後援】 文化庁、独立行政法人国立文化財機構、財団法人文化財保護・芸術研究助成財団